税理士、税理士法人を選ぶポイントは様々あると思います。

「正確な申告ができ、資金繰り、節税、経営アドバイスを適時適切にしてくれ、話しやすい。」

といった完璧な方に出会えたら文句無しです。

 当然、我々はその理想像を目指すべきなのですが、税理士登録者は全国に約76,000人(平成29年2月時点)いるわけです。
 全員がその理想像であればご自宅や会社から最も近い税理士を選べばいいのですが、残念ながら現状そうではありません。
 多数ある税目の中でも税理士によって向き不向きはあり、熱意の差、またお客様との相性の差も当然あると思います。

 私自身も理想像へ向かってひたむきに努力していく所存ではあるので、お選び頂ければ光栄ですし、選ばれた以上十分ご満足いただけるサービスを提供していきたいと考えています。
 一方で、会計業界の内部事情に詳しい立場から、ぜひ会計や税務に関する助けを必要としている方が、ご自身に合う税理士に出会っていただきたいと心より願っています。

 そこで、これまでの私の経験や、同業者の友人知人に聞いた会計業界の現状を踏まえ、会計事務所の実態や問題点、選ぶ基準を以下にまとめてみましたので、参考にして頂ければと思います。

問題点の多い会計事務所運営

 そもそも熱意や向上心が感じられない、コミュニケーションがうまく取れないなどは別ですが、経験や能力のある所長がいたとしても会計事務所には主に以下の問題点を抱えていることが多いです。

①有資格者である所長が無資格の従業員を多数抱え、何件もお客様を担当させている。

②大規模の会計事務所になると、各税金の種類(法人税・資産税etc…)ごとに部門が分けられ、かつ業務にムダが多い。

①についての問題点

 有資格者で会計や税務に詳しいはずの所長にとって、会社の状況を把握する機会が希薄になってしまう点が問題点として挙げられます。

 会計事務所に勤務している従業員の担当件数は、平均しておよそ15社~20社となるそうです。
 従業員を5人雇っているとすると、一つの事務所に約75社~100社程度のお客様がいる計算です。
 決算書・税務申告書作成のみに終始するのであれば、この数の会社でも対応可能かもしれません。
 (事実、私もひと月で5社の決算をこなした経験があるので、単純計算で1人年間60社の決算はこなせる計算です。作成しただけですが。)

 しかしこの数の会社に対して所長は的確な資金繰り、節税、経営アドバイスが行えるものでしょうか。

 「申告書だけとりあえず格安で作ってほしい。」

 というお客様にとっては十分かも知れませんが、お客様のよき相談相手、パートナーとなれているかは疑問です。 
 所長がお客様と契約を結び、あとは無資格の担当者に丸投げの会計事務所は少なくないのが正直な印象です。税理士法に抵触しそうなものですが。

 「うちの会計事務所の従業員は優秀な人材が揃っているし、所長が顔を見せなくても十分なアドバイスができている。」 

といった所もあるとは思います。

 もちろん、お客様が現在の関係に満足であるのであれば問題はありません。

 しかし、所長と従業員の責任の所在を考えてみてください。

 従業員はそもそも申告書にサインをしませんし、通常その資格もありません。
 あくまでも雇われの身なので、無難に決算が終わって定時に帰れさえすればそれ以上を求めようとする従業員は少ないのではないでしょうか。
 
 少し難しい話なのですが、例えば、社長個人が所有している土地を、同族会社に貸しているとして、適切な賃料を社長が受け取っていなくても会社の申告作業自体は終わります。
 しかし、適切な賃料を取ってさえいれば、土地の相続税評価額を低く抑えられ、相続税が安く抑えられたのに、ということがあります。
 複雑な税法の理解と、詳細な資料の確認を要します。

 そこまで突っ込んで担当者は話をしたいでしょうか。
 したくないのが通常だと思います。 
 そんな状況ではなかなか満足なサービスを期待することは難しいと思われます。

 他にも、会計業界は転職や退職・独立が頻繁に行われ、担当者が短期間で変わっていくといった問題もあります。
 担当者ごとに知識、経験、向上心にバラつきがありますし、引継ぎが上手くいっていないと新しい担当者に同じ説明を何度もしなければならない、といったデメリットもあります。
 最悪の場合、引継ぎが上手くいっていない関係でお客様に対する作業時間数が増え、顧問報酬の増額を打診されるおそれもあります。
 全くお客様に非が無いにも関わらずです。

以上が、大まかに①の問題点として私は考えています。

②についての問題点

 名前を良く聞く大規模の会計事務所・税理士法人に仕事を頼めば、質の高いサービスが受けられると期待する方は多いと思います。
 連結や組織再編、海外展開、移転価格税制等の複雑な税務は、大規模事務所・法人への依頼が多く、ノウハウが蓄積する傾向にあるため、非常に有用だと思います。

 一方で、通常の税務申告を大手の会計事務所に依頼するのは、一度立ち止まって考えてみる必要があります。

 大手では、法人税課、資産税課等、各税金種類ごとに部門が分かれていることが多いです。

 「法人税の適切な節税アドバイスを受けたいために法人税の申告を大手に依頼したい。」
法人税課の担当者が、法人税の節税を考えつつ、きめ細やかな提案をしてくれるでしょう。

 では何が問題になるのでしょうか。

「来期の利益額はこれぐらいになりそうなので、役員報酬や賃料をこれだけ増額しておけば、法人の利益を抑えられそうです。」
 法人税の節税に限りなく成功しました。

 しかし役員の所得税や相続税はどうでしょうか。

 法人税の実効税率は25~30%前後(毎年の税制改正により前後します。)であるのに対し、所得税は超過累進課税により、住民税も合わせると税率50%まで膨れ上がることもあります。
 また経営者に相続対策が必要な場合、法人税の節税より遺産となりうる資産を積み上げないことを優先すべきです。
 結果として法人税は減ったものの、経営者一族全体としての納税額が増えた、ということにもなりかねません。

 また、法人税課で相続税の相談をしても、「担当外なので」と断られる、あるいは「資産税課に回します、相談料は・・・」と追加費用がかかることもあるでしょう。
 そうであるならば、最初から様々な申告を横断的に行っている身近な会計事務所の方が適切なアドバイスを安く受けられた可能性があります。

 さらに、大手の会計事務所はムダな業務が多いことも問題点として挙げられるでしょう。

 例えば、
・毎月お客様を訪問し、数円単位まできっちり合わせていく
・各資産の取得原価を、何段階も分け正確に按分している
 (数円のズレが社内的に、または税務的に問題になることはまずありません。)
・社内研修制度が充実しすぎており、いつ使うか分からない研修まである
 (聞いた中で最も衝撃を受けた研修は、四則計算をひたすらさせるもの。いつ使うのでしょうか。。。)
・自分の腹では決まっている将来像や目標を書かされ、上司に提出。何度も面談。
 (数年で辞めて独立したいです、とは書けません。当たり障りのない文章を時間をかけて書いたりします。)

 上記を、残業代まで払ってやらせていたとしたらどうでしょうか。
 そしてその残業代はどこから来たものでしょうか。
 そんなことしてなくていいから顧問報酬を下げてくれ!と思うのは極めて普通だと思います。

 以上が主に考えられる②の問題点です。

会計事務所の選び方基準

 安易に人数が多かったり、有名な会計事務所や税理士法人を選ぶ前に、

▼どのようなサービスを期待しているか

 法人税申告書作成のみを格安で希望なら多数の税理士が見つかりそうです。

▼有資格者は何人在籍しているのか

 有資格者が何人も在籍している場合、面白い仕事があり魅力的な所長がいるケースが多いです。

▼所長や有資格者の話を聞く機会は多いか

 所長1人、無資格者多数の場合、契約を結ぶとき以降有資格者と話す機会がなくなる恐れがあります。

▼所長や担当者は勉強熱心で、お客様を第一に考えてくれそうか

 最新の税制についていくのは至難の業です。

▼担当者は頻繁に変わらないか

 いつも相性のいい担当者であるかどうかは分かりません。

▼会計事務所の離職率は高くないか

 魅力のない会計事務所からは簡単に移れてしまう業界です。

▼そのサービスはコストに見合っているか

 事あるごとに細かい請求書を出してくる事務所もあるそうです。

▼不要な残業を従業員が強いられてなさそうか

 トップが従業員を早く帰らせることも必要な経営能力だと思います。
 その残業代により懐を痛めるのはお客様です。

 以上のような点を総合的に勘案し、慎重に判断されることをお勧めします。
 初回相談は無料という会計事務所も多いため、ある程度質問を用意して、複数の事務所を当たり、出かたを確認するのも効果的だと思います。

 そして一人でも多くの方が、ご自身に合った税理士と巡り合えることを心より願っています。