個人事業主として事業を始めて、ある程度収益を上げられるようになってきたら法人成りすると節税メリットを受けられる、とはよく言われます。
 一般的に年間の利益が500万円~600万円になると、法人成りを検討されることが多いようです。

 確かに法人成りすることで節税のメリットは享受できる可能性がありますが、それ以外にメリットは無いのか、また法人成りすることによるリスクや追加支出等デメリットは何かを考える必要があります。

 そこで、個人事業主と法人成りの違いを簡単にまとめてみますので、一つの参考にしてみてください。

法人成りによるメリット

①社会的信用の向上

 個人では相手にしてもらえなかった大手の取引先と契約を結べる可能性が高まりますし、決算書を毎年作成していることから、金融機関からの信頼は高まり、借入申込や金利交渉の際にもスムーズな事業内容の説明が可能です。
 また優秀な人材を採用できる可能性も高くなるでしょう。

②節税になる場合がある

 個人事業主の場合、事業所得、不動産所得等に対し所得税が課されます。
 この所得税は、個人の課税所得に対して超過累進税率により計算された税額を支払うことになります。
 超過累進税率とは、所得金額が高くなればなるほど適用される税率は高くなり、住民税と合わせると最大で55%超にまで高まります。
 一方法人成りした場合には、法人の所得に対しては、税率25~35%前後となる法人税が、また法人から取る役員報酬に対しては給与所得として所得税がかかることになります。
 簡単に言えば、税額が

 事業の所得税 ≧(法人税+給与所得に対する所得税)

 となる場合に節税となります。
 給与所得に対しては他の所得とは異なり、給与所得控除という政策的に認められた控除があるため、一般的に税額は安くなる点も、節税メリットとして挙げられます。

 (例)
 ・個人事業主の所得600万円⇒所得税約74万円(住民税込みで約138万円)
 ・法人成りし、法人の利益0とした上、600万円の役員報酬を得る
  ⇒法人税約7万円+所得税約42万円=49万円(住民税込みで約86万円)
 
  1年間で約50万円強も節税!!
  ※どちらも社会保険料等の各種控除は考慮外としています。

 その他、節税となる項目は以下が考えられます。
 ・繰越欠損金を法人は7~10年繰り越せる(個人事業は3年)
 ・社内規程作成により、宿泊費、日当を経費にすることができる(個人事業は実費のみ)
 ・生命保険を経費にすることができる(個人事業は最大年間12万円)
 ・退職金を経費にできる(個人事業は不可)
 ・相続時、株の評価で足りる(個人事業なら全資産評価対象)

③家族にも給与が支払える

 個人事業主が家族に給与を支払って経費にしようとするには、一定の要件を満たした上「事業専従者」との認定を受ける必要があります。
 他に職業がある家族に対しては原則経費として支払えません。
 一方で、法人成りした場合には、家族を役員に据えることで役員報酬を支払うことで、堂々と経費にすることができます。
 ※実態の無い報酬は税務否認される恐れがありますので注意は必要です。

④事業の売買や事業承継が容易になる

 事業を売却する際、また事業承継を検討する際、不動産の名義変更や契約書の見直し等煩雑な手続き無く、株式の売買で終了します。
 一方で個人事業主の場合、全資産個別に名義変更が必要等面倒な手間がかかってきます。

⑤加入する社会保険が異なる

 個人事業主は、国民健康保険、国民年金に加入、法人役員であれば健康保険、厚生年金に加入となります。
 それぞれ特徴があり一概にどちらがいいとは言えないのですが、簡単に言えば、前者は費用は少なめ保証は浅め、後者はその逆になります。
 また、後者の健康保険、厚生年金は法人と個人が保険料を折半にして支払います。

⑥決算月を自由に決められる

 決算月を自由に設定することで、繁忙期の決算を避けたり、納税資金が必要となる時期を資金繰りにゆとりのある時期にしたりすることができます。
 また、その後の変更も容易にできます。
 個人事業主であれば、毎年1月~12月までの所得を、翌年3月15日までに確定申告をし、納税しなければなりません。
 一般的に会計事務所も、繁忙期よりそこを外した決算の方が喜ばれるでしょう。

法人成りによるデメリット

①法人設立にはコストがかかる

 株式会社設立には、定款の公証人手数料5万円、印紙代4万円(電子認証なら不要)、登録免許税15万円と、最低でも24万円。
 司法書士等に依頼する場合は報酬も必要となり、30万円程度は設立のみにかかってしまいます。
 合同会社の設立でも10万円程度はかかります。
 個人事業主のままであれば特段開始にコストはかかりません。

②法人税均等割は毎年発生する

 個人事業主の場合、所得がゼロであれば納付する所得税はありません。
 一方法人の場合、法人の所得がゼロであったとしても、会社の規模に応じて7万円以上の均等割を納める必要があります。

③決算コストがかかる

 個人の確定申告は、それほど複雑でなければ自分ですることも可能ですが、法人の場合、決算時作成すべき資料が膨大であるため、会計事務所に委託をする必要がでてくるでしょう。
 そのために毎年顧問料、決算料として20万円~は覚悟しなければなりません。

④事業をやめづらい

 法人を解散するにも、解散登記、解散確定申告、清算確定申告、清算結了の登記と各手続が必要となり、その度に専門家に依頼することが多いです。
 債務の返済が滞り民事再生扱いとなれば、弁護士費用も必要となるでしょう。
 個人事業であれば最終年度に確定申告するのみで足ります。

⑤届出や登記事項が多く煩雑

 個人事業主から法人成りするにあたって税務署や官公庁に提出すべき書類は山のようにあります。

 例)法人設立届出書、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書、棚卸資産の評価方法の届出書、個人事業の廃業等届出書etc…

 また、定款の記載事項を変える、代表者や役員を変更する、役員の定期的な重任等ことあるごとに登記費用がかかってきます。
 ご自身でできれば登記費用のみで足りますが、司法書士等の専門家に依頼すればさらにコストがかさんでいきます。

まとめ

 上記コストを負担してでも、今後安定的な収益が見込める場合には法人成りをするメリットは確かにあります。
 また、最初は赤字だとしても、10年以内に大きく収益を生む可能性があれば、法人を設立するメリットはあると思います。
 しかし、明確な事業計画もなく、その年業績がよかったからと短期的な節税を目的とした安易な法人成りは、結果としてコスト負担を増加させる恐れがあります。
 法人成りはそれほど簡単にオススメ、決断できることではありませんので、慎重な判断をしていただければと思います。
 そのためのお手伝いなら喜んでいたします。